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逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

一年で一番長い日 45、46

結局俺は要領が悪いんだなぁ、と思う。

何でも屋を生業にしているが、興信所のような仕事はできない。浮気調査的なことを頼まれないこともないが、苦手だ。引っ越しの手伝いとか、どちらかというと身体を動かす系の仕事の方が多いし、得意だといえる。死んだ弟は、兄さんは善人だからね、と言っていた。人を疑うことに慣れてないから危なっかしいと。

元・義弟の智晴も似たようなことを言ってくれた。俺は別に善人ではないと思う。そうではなくて、ただどんくさいのだ。元・妻はあなたは要領が悪いのよと言った。そのとおり、俺は要領の悪いどんくさい男だ。

だからといって、「自分、不器用ですから」と言ってキマる健さんのようなシブさにはほど遠いし、苛立ちをちゃぶ台返しで表現する石屋ほどの不器用でもない。

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おかしなことに巻き込まれてしまったのも、要領が悪いせいだろう。それでも、俺は俺なりに頑張らなければいけない。立っている者は親でも使え、持っているツテは忘れずに使え。不器用な俺に<彼>のような知り合いがいるのは奇跡のようなものだが、その奇跡は今の苦境のためにあったに違いない。

さあ、<彼>にばかり任せてないで、俺は俺に出来ることをしよう。取り敢えず、洗濯物を取り入れることにする。もう乾いているはずだ。コンクリートの屋上は、まるで石焼きビビンバ鍋のように熱い。

石焼きビビンバ鍋

今度、安いバナナを買ってきてスライスし、屋上で干してみようか。いい感じのバナナチップが出来そうな気がする。

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そんなバカなことを考えながらやっぱり乾いていた洗濯物を取り入れ、ベッドの上に放り出しておく。これで夕立が来ても大丈夫だ。暑苦しいがきちんとした服に着替え、俺は事務所を出た。

あの夏至の日、俺が目覚めたあのホテルに行ってみるつもりだった。今まで意識的に避けていたが、俺にとっての始まりの場所だ。何か思い出せるかもしれない。・・・何も思い出せないかもしれないが。

何度か電車を乗り換え、最寄り駅で降りる。ホテルまでの十分足らずの道のり、見回してみると上品な店が多い。俺の住んでいる辺りとえらい違いだ。確か、新館と旧館があったはずだが、俺が寝ていたあのスイートルームはどっちにあるんだろう? 下から見上げても当然ながらそんなことは分からない。

着替えてきて良かった、と心から思いながら、待ち合わせでもしているような顔で堂々と正面玄関から入る。全館案内板を睨んでいると、突然首の後ろを冷たい手で掴まれた。悲鳴を上げそうになったが、辛うじて堪える。

全身を硬直させていると、背後でくすくす笑う声がした。



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「やっと戻ってきたね、ここに」

くすくす笑いながら俺の首から手をのけたのは、例の写真と同じ顔の青年だった。俺は無意識に掴まれたところをさすっていた。さっきの冷たい手の感触がまだ残っているような気がする。

「高山葵、くん?」

ゆっくりと訊ねる。心の中は大パニック。遊泳中にいきなりサメに襲われた乙女の気分だ。

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恐ろしげなBGMもなしに現れた人間の形をしたホオジロザメ、いや、高山葵(仮)は、年齢に見合わないような艶っぽい笑みを見せた。

「芙蓉かもしれないよ? 葵でいいかもしれないけど。どっちだと思う?」

俺はこのガキにからかわれているんだろうか? ついムカッとして、俺は反射的に答えていた。
「どっちでもいいよ。どっちでも同じだ」

目の前の青年は一瞬傷ついたような表情をしたが、目を伏せて、ふふっと笑った。
「そうだよね。どっちでも同じだ、俺たちは」

「一緒に来てくれるよね?」
そう言った時には、もうそんな表情は消えていた。

「ど、どこへ?」
及び腰で訊ねる俺に、青年は答えた。

「ネクロポリス」

不吉な響きに、俺は顔が引きつるのを感じた。死者の都だって? どこにあるんだそんなもの。

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それともまさか、今からエジプトのルクソール遺跡にでも行くとか?

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いや、それはない、とひとりボケツッコミしていると、青年はついて来いとでもいうように背中を向けて歩きだす。俺は慌ててその後を追った。

迷いもなくどんどん歩いて、青年は高層階行きのエレベーター・ホールに向かう。まさか、例のスイートルームに行くんだろうか。嫌な記憶がフラッシュバックする。

それにしても、どうして俺が今日このホテルに来ると分かったんだろう? 俺、見張られてる? <サンフィッシュ>に行った時も、見計らったようにこいつにそっくりな謎の女が現れたし。

なんでだ? こんな何の変哲もないしょぼくれた男に、そこまでするようなどんな価値があるっていうんだ?

それが智晴の言っていた<動機>なんだろうか。Why done it?--それが明らかになるんだろうか?



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